ペットのオンライン診療について、先日の記事でヒトのオンライン診療を
参考にしながら日本の現状をお伝えしました。
本日は、海外のペットのオンライン診療に対する状況をまとめました。
ペットのオンライン診療~日本の対応状況おさらい~
ヒトの医療では、2018年3月に厚生労働省より発表された、
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」によると、
「オンライン診療」とは、
「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して 、
患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を 、
リアルタイムにより行う行為 。」
と定義されています。
つまり、互いが離れた場所にいる医師、患者間において、
パソコンやスマートフォンなどモバイル端末を用いて、
インターネットを通じてリアルタイム同期を行うことによって、
診察及び診断を行い、それをもとに処方を行うことです。
移動時間や待ち時間を気にすることなく、自宅や職場などにいながら
医療を受けることができます。
動物医療に関しては、2019年度の農林水産省の
「獣医療提供体制整備推進総合対策事業に係る公募」にて、
情報通信機器を活用した産業動物診療の効率化の検討が開始されたばかりであり、
2019年度中の指針の策定を目指しています。
「オンライン診療」に関する農林水産省の正式な見解が出ていない中で、
現在、ペットにおける遠隔医療で可能なことは、以下の2点になります。
1.オンラインによる診療(電話による再診の範囲を大きく逸脱しない)
2.オンライン健康医療相談
特に1に関しては、
平成4年9月1日4畜A第2259号各都道府県知事あて
農林水産省畜産局長通知(https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/zyui/pdf/unyou.pdf)を根拠に現在の解釈の中でもオンラインによる診療は実質は可能となっています。
ペットのオンライン診療について、詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
ペットのオンライン診療~アメリカの状況~
アメリカは日本と違い、州ごとに獣医療に関する法律が異なります。
そのため遠隔医療に対する考えは州によっていろいろです。
そんな中、AVMA(米国獣医師会)は、
遠隔診療を獣医師が責任をもって利用するための指針を作成するために、
米国獣医師会診療詰問委員会へ詰問を行いました。
それによって、委員会は2016年3月から審議を開始し、
2017年1月13日にテレメディスンに関するファイナルレポートを作成しました。
その中で委員会は、獣医師会に対して下記のように勧告しています。
Nonclients are individuals with whom the veterinarian does not have a valid VCPR, and without a VCPR,telemedicine should not be practiced. Any advice given should remain in general terms, not specific to
an individual animal, diagnosis, treatment, etc.「VCPR*1にない獣医師、クライアント、患者間の関係では、遠隔医療は行うべきではなく、いかなる助言も個別の動物や診断治療等に特定されない一般的な事項にとどめるべきである。」
引用元:FINAL REPORT ON TELEMEDICINE page13 4.3.2. Nonclient, public-facing electronic communications
https://www.avma.org/sites/default/files/resources/Telemedicine-Report-2016.pdf
また、2018年にはAVMA(米国獣医師会)とAAHA(米国動物病院協会)の共同で
動物病院向けの「The Real-Life Rewards of Virtual Care」
(https://www.avma.org/sites/default/files/resources/Telehealth-Virtual-Care-Brochure.pdf)が作成されました。
上記のFINAL REPORT ON TELEMEDICINEを臨床の開業獣医師向けに、
実際に遠隔診療を導入するうえで、動物病院が参考にすべき事項の具体的な
ことがわかりやすく記載されています。
そこでは、遠隔技術を用いた獣医診療の提供のことをバーチャルケアと定義しており、
下記の事項が記載されています。
- バーチャルケアの分野で使用する用語の開設
- バーチャルケアが必要な理由(獣医師にとって)
- バーチャルケアとVCPRの関係
- 遠隔医療実施のためのサービスモデルと導入環境
- 遠隔医療を適用するための臨床シナリオ
- 遠隔医療を導入するためのステップ
- 導入事例
これからバーチャルケアを取り入れる動物病院の理由やメリットが記載され、
前向きにとらえています。
ただ、やはりVCPRの構築の重要性、そしてVCPRが構築されているとされる定義を
定めることがこれからの課題だと書かれています。
実際に対面していない中での診療などのコミュニケーションを取るときに、
獣医師と飼い主様、動物の関係性がどうあるべきか、
そしてそれをどう構築するかの定義づけがオンライン診療を安心して利用するための
カギになりそうです。
ペットのオンライン診療~イギリスの状況~
英国では、獣医師は、RCVSの職業行動規範のガイドラインに従って、
実際の検査なしに状態を診断したり、治療薬を処方したりすることはできません
RCVS(イギリス王立獣医協会)は、2017年より遠隔医療が提供すると言われている
利点に対応するために、そのルールの一部を更新するかどうかを積極的に
検討してきました。
これまでの遠隔医療は、専門医同士の相談、
もしくは一般の開業医から専門医への相談など、
獣医師間での使用を主な目的として捉えていたが、
新しい技術が開発されてくるとともに、
遠隔医療サービスをクライアントにも直接導入しようとしている
企業が増えている状況です。
その結果、2018年3月、RCVS review of the use of telemedicine within veterinary practice(https://www.rcvs.org.uk/document-library/telemedicine-consultation-summary/)を発表しました。
この中で、RCVSは、現在許容されている遠隔医療の内容を明確に示すことで一致し、
RCVSの職業行動規範で示されている「医師の監督下での処方や医療行為を行うこと」と
いう規範を変更することができるかどうかが鍵になると述べています。
そこで、遠隔医療が次のステップに進められる前に、
臨床獣医診療における遠隔医療を取り巻く様々な問題に配慮することを目的に、
獣医学の専門家、一般人、ステークホルダー/組織に対する個別の調査が作成され
その結果を公開しました。
また、RVCSは2020年11月に新しいガイドラインの公開を目指しています。
まとめ
以上、ペットのオンライン診療に関する海外の現状をまとめました。
各国、ここ数年オンライン診療の議論が活発になっているのがわかります。
メリットを感じつつ、不安もあるというのが多くの方が感じるところのようです。
どの国にも大枠で共通している点は、
- 獣医師、飼い主、患者の関係性は構築できているのか
- その関係を築くために、対面でのコミュニケーションが必須なのか
があります。
オンライン診療を活用する上での不安を少なくするためにもこの部分は議論を深め、
明確に定義していく必要があると感じています。
さらなる議論が日本国内でも進むことを期待しています。
今後も新しい情報が出るたびにこのブログも更新させていただきます。
皆さまのご参考になれば幸いです。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う、各国の対応状況は下記事をご参照ください。
*1:Veterinarian-Client-Patient Relationshipの略。獣医師、飼い主、患者の基礎的な関係のことで、AVMAは、これを電話などの電子的な方法のみでは構築できるものではないとしています。